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相手は繊細な女性なのだ。
エレベーターに閉じ込められるというストレスは、きっと春一が感じている比ではないのだろう。
「気分でも悪いの?」
女性の顔色を見てみようと、腰をおとして覗き込む。
すると女性は、あからさまに春一から目をそむけた。
「し、心臓に悪い」
「え!?」
女性の発言を聞いて春一は驚く。
「キミ、もしかして心臓が悪いの?」
発作でも起こしたのなら、大変なことになる。
「待ってて、すぐに救急車を呼ぶから」
再び非常ボタンに駆け寄ろうとしたのだが、そんな春一の浴衣の裾が、ガシリと掴まれた。
「……いえ、違うんです」
女性は耳まで真っ赤にして、息を荒くしながら、震えた声で春一を見上げてくる。
こんな苦しそうな状態が、発作以外の何だと言うのだろう。
「私は、大丈夫ですから」
でも女性が重ねて言うので、春一は非常ボタンを押すことを諦めて、傍らにしゃがみ込んだ。
きっと彼女は、春一に迷惑をかけまいと無理しているのだ。
強がる女性のいじらしい姿に、ちょっと胸をうたれる。
春一は彼女が少しでも楽になれるといいと願いながら、
「わかった。でもゆっくり、深呼吸してみようか」
声をかけ続ける。
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