イケメンパニック

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美穂は、今度こそ本気で言葉を失った。 息まで止まる。 気絶しているわけでも気分が悪いわけでもないけれど、声が、出ない。 たとえ出たとしたって、今さら、 「ごめんなさい、元気です!」 なんて言えるわけもない。 結局、近くの部屋まで男にお姫さま抱っこで運ばれて、布団の上にそっと寝かされる。 そこでようやく、 「え? お客さまは、お連れさまではないのですか?」 ホテルマンに言われて、男は、 「ええ、ですから俺はこれで失礼します。後のことはお願いします」 つれなく、その場から立ち去ろうとした。 美穂は慌てて飛び起きて、 「ちょっと待って!」 叫ぶ。 声をあげた美穂にイケメンは、まさに部屋を出て行きそうなドア口で振り返ると、 「ああ気づいたんだ。良かったね。ちゃんと助かったよ」 これまた花が開いたような笑顔を浮かべる。 「――!」 思わず見惚れて――。 その間に男は、美穂になどまるで眼中にないと、パタンと呆気なくドアを閉めてしまう。 さっさと風のように行ってしまった。 ――。 「……あれ誰? ねぇ、あれ一体どこの誰なのっ!」 美穂が聞いても、もちろんホテルマンや仲居が知るわけもない。
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