119人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
というわけで、部屋を出たのはチェックアウトぎりぎりの時間になった。
「鈴音、忘れ物はない?」
ドアを手で開け放ってくれながら、春一はまだ部屋の中でぐずぐずしている鈴音に声をかけてくれる。
「えっと大丈夫です。多分」
情けない返事だが、春一が朝っぱらからあんなことをしなければ、鈴音だってもっと余裕をもって、帰る支度ができたはずだ。
今朝の原因は春一にもある。
慌てたら、ついカーペットの引っかかりに足を取られてしまう。
春一はすかさず、腕を掴んで支えてくれながら、
「鈴音、気を付けて」
「……」
全部、春一が悪い。
春一が恰好よすぎて、気を抜けば、つい見惚れてしまう鈴音がいる。
ふたりでフロントまで歩いてくると、鈴音は驚いた。
フロントのロビーは、まるでこれからイベントでも始まるように、人で溢れていたのだ。
ほとんどは制服を着た旅館の従業員だが、中には私服の女性客の姿もある。
「これ何?」
鈴音は聞いたが、春一も首を傾げて、
「さあ? これから芸能人でも来るんじゃないか」
と言った。
最初のコメントを投稿しよう!