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すると春一は、
「俺は別に、特別なことはしていないですから」
言いながら、傍らに立っていた鈴音の肩をそっと抱いた。
「それに今日は彼女が一緒ですから、お気持ちだけと女将から伝えてください」
ほんの僅かに沸いた鈴音の嫉妬に、春一は気づいてくれたのだろうか。
思わず見上げる視線の先で、春一は、鈴音が信用に足る笑顔を向けてくれる。
『……春さん』
そっと寄り添ったら、
「キィーッ!」
まったく逆の方向から悲鳴のような声があがって、飛び上がるほど驚いた。
目を向ければ、年配の細身の仲居さんが、ハンカチを噛みしめながら呻いている。
「?」
首を傾げる鈴音に、春一は苦笑しながら、
「大丈夫だよ、行こう」
エスコートしてくれた。
「う、うん」
返事をして一緒にフロントで鍵を返したら、
「宿泊費以外はサービスとさせていただきます」
これまた丁寧に、フロントマンから頭を下げられる。
「ありがとう」
春一は余裕で旅館からの好意を受け取るが、
『だから春さん、夕べはいったい、何をしたんですか?』
鈴音の疑問は膨らむばかりだ。
Fin
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