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「黒井さんは帰っていいよ」
冬依は言うけれど、
「帰れるわけないじゃない。店長の名前を騙って、私が呼び出したんだから」
結局、仁依が店長の名前で、その坂田という先生を公園まで呼び出した。
公園と言っても、夜になると灯りも乏しく、人通りも無くなるような場所だ。
さっきの路地裏といい、冬依はこの辺りのひと目につかない場所を熟知している。
とにかく、そんな危険な場所に呼び出したのは仁依なので、冬依に帰れと言われても、素直に帰れるわけがない。
「じゃあせめて、目立たない場所に隠れててね」
冬依にそう言われて、しぶしぶ承知したのは、何かあったら通報できるのは仁依しかいないのと、
「呼び出したのが店長さんじゃないってバレたら、こいつ帰っちゃうかもしれないでしょう」
冬依にそう言われたからだ。
「店長さんは? って聞かれたら、ボクが上手くごまかすからさ」
だいたい冬依は坂田の高校の生徒ではないので、呼び出した相手が自分だとは思わないだろう、と冬依は言う。
そして、
「とにかく公園の中まで来てもらわなきゃ、ぜんぜん話にもならないしね」
言うけれど、
「話って、何を話すのよ」
仁依には、万引きの黒幕で、しかも先生という地位も頭もある大人の男に、冬依のような子どもが何を話そうとしているのか見当もつかない。
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