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すると少女は、
「ああ、だって」
わざと仁依の視線を避けるように、辺りを見回し、男たちが置いていった傘を一本拾い上げた。
放り出されたせいでびしょびしょの水滴を振り落としながら、
「黒井さん、さっきのコンビニで、モップを持って働いてたじゃない。その時にボク、ネームプレートを見たんだ」
少女が差し出す傘を、仁依は怖々と受け取る。
やっぱり同じように、男たちが置いていった傘を当たり前のように拾い、ポンと広げて、
「もう少し明るいところまで行こうか」
少女に誘われるままに仁依も歩き出す。
確かに仁依は今日、コンビニの中で清掃員として働いていた。
皆と同じようにコンビニの制服を着て、そして胸には小さなネームプレート。
でも仁依の恰好は、制服だけじゃなく、配達員がかぶるような付属のキャップとマスク付きだ。
店長の了解の上で、なるべく顔を隠しながらコンビニの中にいたのだ。
それなのにこの子は、コンビニの清掃員と私服の仁依を、同じ人間だとあっさり見破っている。
もしかして仁依の、慣れない掃除の手つきが不自然すぎたのだろうか。
それとも、マスクが大げさすぎた?
「あの、私ってば、逆に目立ってた?」
怖々聞けば、少女は、
「ううん」
首を振る。
「ずうっとお姉さんの素顔が見たいなぁって、思いながら見てたからだよ」
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