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電話口で話した相手の男は、仁依の潜めた声音に、
「怯えてらっしゃいますね」
背筋がゾワリとするような気持ち悪いことを言う。
仁依でなくとも、怯えて当たり前だ。
なんたって相手はストーカー。
けれど男は、
「うれしいです。あなたからボクに電話をくださるなんて」
そう仕向けたのはそっちのはずなのに、ずうずうしいこと甚だしい。
仁依は気持ち悪いのを我慢して、冬依と打ち合わせた通りの演技を続ける。
「だって生徒さんの将来に関わることですもの。生徒さんは自宅の住所をどうしても教えてくれないんです。ですからこうやって、学校の先生にご連絡さしあげています」
坂田にとっては織り込み済みなのだろう。
しゃあしゃあと、
「日頃から、生徒には何かあったらボクを頼るよう言ってありますからね。ボクは生徒たちの生活指導ですから」
言ってのけた。
ストーカー野郎に生活指導される生徒の方が気の毒だ、と仁依は思う。
そうやって呼び出した坂田を待つ間、冬依は薄暗い街灯の下、たったひとりで佇んでいる。
チカンを警戒する女の子みたいに、右手で忙しなく携帯を操っている。
しかし、ほんのりと光る携帯のライトに浮かび上がる冬依の整った顔は、どこか冷めていてなんの表情も読み取れない。
はたして冬依は、あの白い顔で何を考えているのだろう。
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