117人が本棚に入れています
本棚に追加
坂田が追いかけてこないのを確認し、冬依がやっと足を止めてくれたのは、ふたりで手をつないでずいぶん走った後だった。
仁依は膝に手をあて、ただ息をするだけで精一杯になる。
対する冬依は、少しだけ髪を乱しているものの、特に呼吸も様子も変わったところがみえない。
ちょっと、悔しい。
もしかして年の差だろうか。
別に坂田程度の男にオバサン呼ばわりされたのを根に持つわけではないが、こうあからさまに体力差を見せつけられれば、さすがの仁依も運動不足を自覚する。
仕事帰りにジム通いでも始めるかと考えながら、
「ごめんね冬依くん。私、冬依くんの作戦だってわかってたけど、黙って見ていられなかった」
仁依が謝ると、
「作戦?」
冬依は首を傾げて聞き返してくる。
「うん、冬依くん、店長の身代わりになる気だったんでしょう」
坂田の興味を冬依に移して、店長に対するストーカー行為を辞めさせる。
それが冬依の作戦なら、冬依が坂田の顎に頭突きを喰らわした時点で、全部おじゃんだ。
おまけにその後、顔面に蹴りまで放ったのだから、いくら美少女の冬依相手でも、坂田は二度と気を許さないだろう。
でもあの蹴りが、坂田の暴言を冬依が怒ってくれた結果だとしたら、仁依は少し嬉しい。
最初のコメントを投稿しよう!