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だけどひとつだけ。
仁依は真剣な顔で冬依に告げる。
「ねえ冬依くん。あなたが何に怒ったのか、やっとわかった気がするけど。でも捨て身になるのもほどほどにしなさいよね。
だって今回は未遂で終わったけど、本当にキスなんかされていたら、あなたまで大変なことになってたわ」
冬依はやっぱり意味がわからないと小首をかしげる。
だから仁依はまた言いにくいことを、はっきり口にしなくてはならない。
「今回は、証拠写真を撮るのが間に合ったから、冬依くんは一方的な被害者に見えるわ。あいつに捕まってるだけ。でも――」
冬依の握っている携帯にじっと視線を落とす。
「本当にあんなやつにキスなんかされて、ましてやそんな写真が世の中に出回ってみなさい。興味本位でいろいろ言う人もいるのよ。何も悪くない冬依くんが傷つくことになりかねないの。へたすると援交とか売春とか……」
まだ冬依はキョトンとした顔のままなので、仁依は語調を強くし、
「冬依くんがいくら男の子でも、変な噂を流す人はいるのよ。冬依くん、友だちを助けようとするのは、すごくいいことだけど、あなたはもっと自分を大事にすることも考えなきゃダメ」
こんな面倒くさいことを言うのも、大人の仁依だけだろう。
子どもたちの中では冬依は、悪徳教師を痛快にやっつけたヒーローだ。
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