冬依の中学1年生

42/50
前へ
/50ページ
次へ
だけどひとつだけ。 仁依は真剣な顔で冬依に告げる。 「ねえ冬依くん。あなたが何に怒ったのか、やっとわかった気がするけど。でも捨て身になるのもほどほどにしなさいよね。 だって今回は未遂で終わったけど、本当にキスなんかされていたら、あなたまで大変なことになってたわ」 冬依はやっぱり意味がわからないと小首をかしげる。 だから仁依はまた言いにくいことを、はっきり口にしなくてはならない。 「今回は、証拠写真を撮るのが間に合ったから、冬依くんは一方的な被害者に見えるわ。あいつに捕まってるだけ。でも――」 冬依の握っている携帯にじっと視線を落とす。 「本当にあんなやつにキスなんかされて、ましてやそんな写真が世の中に出回ってみなさい。興味本位でいろいろ言う人もいるのよ。何も悪くない冬依くんが傷つくことになりかねないの。へたすると援交とか売春とか……」 まだ冬依はキョトンとした顔のままなので、仁依は語調を強くし、 「冬依くんがいくら男の子でも、変な噂を流す人はいるのよ。冬依くん、友だちを助けようとするのは、すごくいいことだけど、あなたはもっと自分を大事にすることも考えなきゃダメ」 こんな面倒くさいことを言うのも、大人の仁依だけだろう。 子どもたちの中では冬依は、悪徳教師を痛快にやっつけたヒーローだ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加