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ちなみに仁依は、少女に名前を名乗った記憶はない。
けれど名前は確かに、黒井仁依と言う。
「え!?」
問いただそうと腕を伸ばしたら、その手にまんまとカバンを受け取ってしまった。
「よろしくね」
少女は完璧に決まったウインクをひとつ。
雨に濡れた睫毛から、星のような水滴がきらめいている。
「え、あの……」
仁依が戸惑っている間に、
「じゃあ行こうか、お兄さんたち」
少女は先に立って歩き出している。
男たちも、
「いいぜ。行こう」
「行こう行こう。オジョーチャン寒そうだ。オレタチがあっためてあげるから」
言いながら、少女の肩を抱くように腕を回した。
その場に残された仁依を振り返り、イヤらしい勝利者の笑みを浮かべている。
万引き商品より、美しい少女の存在の方が、余りある対価とでも言いたいのだろう。
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