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人型のそれは、一歩、また一歩と私たちに近づく。
その右手に収められているものは丸い、球状の何か。
わずかに凹凸があるようだが、逆光による影が強すぎて判別が出来ない。
「親父……? 親父!」
少年の叫ぶ声に反応したのか、人型は私たちに指を向ける。
口が動くのは見て取れたが、何を喋ったのかはわからなかった。
その一言を言い終えると同時に、私と少年の間に一陣の光が駆け抜ける。
しかしその光は、白でも黄色でもなく紫に近い青だった。
音も無く駆け抜けたそれは、私たちのはるか後方で爆音を奏でる。
「空間支配系……?」
そうつぶやいた少年は、一歩後ろに足を引く。
「やめて」
誰の声だ? 私の声か? 自分の声とは思えないほど、自分の声帯が動いている感じはしない。
しかし人型はその声を無視しているのか聞こえていないのか、確実に一歩ずつ私たちに近づく。
「やめて」
少しずつだが、自分の声が大きくなっていくのが感じ取れる。しかし無意識だ。自分の声は自分の心にすら届かない。
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