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寝室で美百合と過ごすふたりの時間は、龍一にとって、とても貴重だ。
義父の目を気にすることなく、思う存分、美百合を抱きしめることが出来る。
だがその大切な場所に、ふたりの寝室のベッドの上に、
美百合が『ミャー』と名付けた仔猫が、でんと居坐っていた。
美百合より先に寝室にあがってきた龍一は、それを見つけて腕を組む。
「――そこを、どけ」
誰もが震えあがるに違いない、薄刃をひいたような氷の眼差しを向けた。
しかし、仔猫は知らん顔で毛づくろいをしている。
足を広げて、股の間をなめ出した。
その瞬間に、仔猫と龍一の仲が、完全に決裂した。
仔猫は『オス』だったのだ。
「悪く思うなよ」
龍一は呟いて、文字通り仔猫の襟首をつまみあげる。
仔猫は文句を言いたげに龍一を見たが、かまわず部屋から放り出そう、
と振り返った。
そこに――、
驚くほど近くに、美百合が立っていた。
気配を悟られることなく、龍一の背後に立てる人間などいない。
知らぬ間に、こんなに近くまで侵入を許した相手は初めてだ。
驚いたが、相手が美百合だからか、と自分をなだめた。
警戒心が緩んでいる。
それほどまでに、龍一は、美百合にいろいろなことを許している。
それが無意識に作用したのだと思った。
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