1 猫

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寝室で美百合と過ごすふたりの時間は、龍一にとって、とても貴重だ。 義父の目を気にすることなく、思う存分、美百合を抱きしめることが出来る。 だがその大切な場所に、ふたりの寝室のベッドの上に、 美百合が『ミャー』と名付けた仔猫が、でんと居坐っていた。 美百合より先に寝室にあがってきた龍一は、それを見つけて腕を組む。 「――そこを、どけ」 誰もが震えあがるに違いない、薄刃をひいたような氷の眼差しを向けた。 しかし、仔猫は知らん顔で毛づくろいをしている。 足を広げて、股の間をなめ出した。 その瞬間に、仔猫と龍一の仲が、完全に決裂した。 仔猫は『オス』だったのだ。 「悪く思うなよ」 龍一は呟いて、文字通り仔猫の襟首をつまみあげる。 仔猫は文句を言いたげに龍一を見たが、かまわず部屋から放り出そう、 と振り返った。 そこに――、 驚くほど近くに、美百合が立っていた。 気配を悟られることなく、龍一の背後に立てる人間などいない。 知らぬ間に、こんなに近くまで侵入を許した相手は初めてだ。 驚いたが、相手が美百合だからか、と自分をなだめた。 警戒心が緩んでいる。 それほどまでに、龍一は、美百合にいろいろなことを許している。 それが無意識に作用したのだと思った。
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