1 猫

9/13
前へ
/49ページ
次へ
いつもなら、 龍一にこぼれんばかりの笑顔を向けるか、 物も言わず抱きついてくる美百合なのに、 今日は、じっとその場に立ちつくしていた。 顔も俯き加減で、長い黒髪が邪魔をして、表情が見えない。 さては、龍一の仔猫の扱い方が気にいらないのかと、ミャーの体を抱き直そうとすると、 「フーッ!」 ミャーが威嚇の声をあげた。 龍一の腕に小さな爪をたてて、目の前にいる美百合を睨んでいる。 龍一が怪訝に思って、背の低い美百合の顔を覗きこむために、腰をかがめると、 ――ふいに美百合が顔をあげた。 その表情は、美百合のものではなかった。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加