1 猫

10/13
前へ
/49ページ
次へ
いや、つくりは美百合の顔だ。 唇をあげ、目尻を下げている。 笑っていると言えばいいのだろう。 だが、龍一に伝わる印象が、ひどくおぞましい。 こんな表情をする美百合など、これまで龍一は見たことが無かった。 龍一は、えも言われぬ不快を感じて、とっさにミャーと共に飛び退った。 その瞬間、さっきまで龍一がいた場所を、円を描いて包丁が横切る。 美百合が、龍一に切りつけて来たのだ。 「……美百合、何をする?」 美百合は、不思議そうに手ごたえのなかった虚空を見つめ、視線をさまよわせ、 そして、龍一を見つけた。 「美百合?」 美百合は変わらず笑っている。 しかし、それは断じて、いつもの美百合の笑顔ではなく、 「ウウウゥゥゥ」 ミャーは、ずっと唸り続けている。 そして、 「フーッ!」 毛を逆立てた瞬間、美百合が来た。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加