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それは歩いてきたのではない。
足を動かした様子はない。
美百合は直立不動のまま、まるで空気の床を浮いて滑るように、龍一との距離を一気に詰めたのだ。
「なっ……」
さすがの龍一も驚いて、反応が一瞬遅れる。
それでも美百合が突き出してきた包丁は、体を捻って避けた。
反射で手刀を繰り出そうとしたが、龍一の腕力では、美百合を傷つけてしまう。
それだけは、出来ない。
龍一は、己の腕を、とっさに止めた。
美百合は包丁を反転させて、龍一に切りつけてくる。
前に出ていた右腕に、刃先が刺さった。
美百合はためらわず、それを切り裂いて、
「ゲッゲッゲッ」
美百合の物ではない、男の声で笑った。
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