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「ミャーゥウ!」
ミャーが甲高い声で鳴く。
その声に呼び覚まされるように、龍一の見ている前で、美百合の表情がめまぐるしく変わった。
薄気味の悪い笑い顔や、うつろな眼差し。
そして苦痛にゆがんだ、美百合の本当の素顔。
「りゅ……いち、ダメ。来ないで……」
美百合は搾り出すような声で言った。
美百合が寝室に持ち込んだ包丁は、とっくに処分した。
他にも果物ナイフなど、凶器になりそうな物は、龍一がすべて部屋から持ち出したはずだ。
しかし、どこに隠してあったのか、美百合の右手には、大きな裁ちバサミが握られている。
「来ちゃ、ダメ。……龍一」
美百合は言う。
だがその顔は、何かに耐えているように歪み、息遣いも荒い。
これが葛原の演技なのか、
それとも美百合が本当に苦しんでいるのか、
龍一には見分けがつかなかった。
だから、
「美百合、辛いのか?」
語りかけながら、龍一は近づく。
「どこが苦しい? 俺に何が出来る」
しかし、
「来ないで!」
美百合は叫ぶ。
その同じ口で、
「……助けて」
と震えた。
「私をつかまえてて。怖いの」
どちらの声でもよかった。
「すごく、怖いの」
美百合に望まれて、龍一に拒否など出来るわけがない。
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