2 父

8/12
前へ
/49ページ
次へ
風のように駆け寄り、美百合を強く抱きしめる。 その瞬間に来た。 頬に焼け火箸をあてられたような刺激が走り、熱い液体が涙のように伝う。 美百合のハサミは、龍一の眼球を狙った。 だが間一髪、龍一は顔を傾けて避ける。 「キャアアアア!」 自分が何をしたのかを知り、美百合は叫んだ。 「ダメ、龍一、私から離れ、  ――ああっ!」 精一杯の訴えを、理不尽な暴力で断ち切られたように、背を反らして悲鳴をあげる。 美百合の体は、何者かに、キリキリと締め上げられているようだ。 「よせ葛原! 美百合を傷つけるな!」 龍一は美百合が倒れてしまわないように支えながら、美百合の中に潜むソレに語りかける。 そんな無力な方法しか、龍一にはすべがない。 「よせ! 苦しめるなら、俺にしろ。俺に来い!」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加