2 父

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「……頼む」 ついに龍一は懇願した。 「美百合だけは助けてくれ。俺が、代わりに何だってする」 「ゲッゲッゲッ!」 求める言葉を聞いて、美百合の中のモノは高笑いをあげる。 「俺もそう望んだ。息子の代わりに俺を殺せと叫んだはずだ。 だが龍、お前はそれを聞いて、何をした?」 美百合に握らせた裁ちバサミを振りあげた。 「殺したんだ!」 それは弧を描いて、龍一の肩に刺さる。 「お前は俺の息子を殺した。俺の懇願を無視して殺したんだ!」 龍一は、 ――堪えた。 今抵抗すれば、美百合がどんな目に合うかわからない。 美百合は、自分の右手が仕出かしたことを、信じられない目をして、見つめていた。 パクパクと動く唇は、ひっきりなしに龍一の名を形作っている。 龍一は、そんな美百合を見下ろして、その顔に余裕の微笑みを浮かべた。 「大丈夫だ、美百合」 筋肉で受けたハサミは、深く刺さり、肩に突き立っている。 頬から流れる血も、止めようがない。 腕に受けた切り傷も、シャツを巻いてあるだけで、手当もしていない。 だが、痛みを見せるわけにはいかなかった。 龍一が苦しめば、  ――美百合が苦しむ。
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