47人が本棚に入れています
本棚に追加
「……頼む」
ついに龍一は懇願した。
「美百合だけは助けてくれ。俺が、代わりに何だってする」
「ゲッゲッゲッ!」
求める言葉を聞いて、美百合の中のモノは高笑いをあげる。
「俺もそう望んだ。息子の代わりに俺を殺せと叫んだはずだ。
だが龍、お前はそれを聞いて、何をした?」
美百合に握らせた裁ちバサミを振りあげた。
「殺したんだ!」
それは弧を描いて、龍一の肩に刺さる。
「お前は俺の息子を殺した。俺の懇願を無視して殺したんだ!」
龍一は、 ――堪えた。
今抵抗すれば、美百合がどんな目に合うかわからない。
美百合は、自分の右手が仕出かしたことを、信じられない目をして、見つめていた。
パクパクと動く唇は、ひっきりなしに龍一の名を形作っている。
龍一は、そんな美百合を見下ろして、その顔に余裕の微笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、美百合」
筋肉で受けたハサミは、深く刺さり、肩に突き立っている。
頬から流れる血も、止めようがない。
腕に受けた切り傷も、シャツを巻いてあるだけで、手当もしていない。
だが、痛みを見せるわけにはいかなかった。
龍一が苦しめば、
――美百合が苦しむ。
最初のコメントを投稿しよう!