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そんな美百合を屈服させるように、美百合の手が、美百合自身の喉にのびた。
首に巻き付け、絞める。
「よせっ!」
龍一は美百合の指と喉の間に、自分の指を潜りこませて、
懸命にそれを剥がそうとした。
だが美百合の指は、信じられない力で、細く長く食い込み、
ギリギリと自分の喉を締め上げる。
美百合の顔色は、酸欠で赤くふくらみ、今度は、見る間に悪くなっていく。
血の気がひいて真っ青になり、やがてそれは死人のような、土気色に変わっていった。
葛原が、美百合を力づくで従わせようとしているのだ。
「美百合、いい」
龍一は美百合の肩を掴んで言った。
「お前は十分戦った。後は俺に任せろ!」
美百合の指を、血を吐く思いで引っ掻き、わずかに怯んだ隙に力任せに喉から剥がす。
勢い良く口付け、強く息を吹き込んだ。
いきなりの龍一のキスに、美百合は驚いたようだ。
大きな目を見開いて、真正面にある龍一を見つめていた。
ゆっくりと顔をあげ、龍一は美百合を見つめて、微笑んだ。
これまでにないほどの最高の笑みを、その顔に浮かべて見せた。
ドクン!
美百合の心臓が高く跳ねるのを、龍一は、抱いた腕の中で聞いた。
「……いいんだ美百合」
美百合にもしものことがあれば、龍一は、自分の生きる意味を無くす。
自分の命に価値など見つけらない。
「美百合。俺の罪は、俺が背負うよ」
龍一の笑みは、曇らない。
どこまでも美しく、何度見せても美百合が照れてしまう、完璧な微笑みを浮かべている。
これが最後になるかもしれない。
だから、
「お前にめぐりあえて、俺は本当に幸せだった」
美百合がいつも褒めてくれるこの顔を、美百合の記憶に留めてやりたかった。
そして龍一の目にも、愛しい美百合の姿を焼き付けておきたかった。
龍一は美百合を抱きなおし、腰を支えて顔を寄せる。
「お前と過ごせた時間だけが、俺は人間だった」
美百合に届けと、言葉を告げる。
「だから、もういいんだ」
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