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そして、小山の頂上の少し拓けた場所に、龍一は立った。
傍らには、龍一が美百合の為に置いたベンチ。
ザワリ
と木々が揺れ、龍一は反射で地に伏せた。
さっきまで龍一の頭があった場所を、黒い影が通過する。
龍一は転がりながら足を回し、マサカリのように、飛び込んできた影の首を刈った。
首に強烈な打撃を与え、続けざまに両足で挟み、黒い頭を地に叩きつけた。
「グゥゥゥゥ……」
ミャーは小さな仔猫だったはずだ。
だが今、地面に叩きつけた獣は、黒いヒョウほどに大きい。
強烈な一撃を与えたはずなのに、まるで水滴を嫌う程度に頭を振っただけで、身軽に立ち上がった。
獣は油断なく、転がった龍一の周りを、唸りながら、前足を動かして歩き始める。
と、予備動作なしに、獣が跳ねた。
龍一は支えていた左腕を緩め、地に寝そべって、獣の爪を避ける。
龍一の上を通過した獣は、宵闇に迫り始めた山の景色の中に飛び込み、
まるで迷彩をまとったように姿を隠した。
やはり、――罠か。
人間は、暗闇では視力も落ちるし、鼻も利かない。
山の中では、獣が有利だ。
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