47人が本棚に入れています
本棚に追加
この意味不明の愛銃の叫びと、胸の声が、
龍一の判断を妨げる。
いつもなら考える間もなく動いている龍一の体が、金縛りにあったように動かない。
「ギャアアゥゥゥ!」
白い影が、獣の声をあげた。
殺らなければ、殺られる!
龍一の喉笛を喰いちぎるために飛びかかってくる。
龍一の生存本能はキンキンと警報をならし、身を守るための行動に移れと叫んでいる。
龍一は自分の身を守るために、心を閉じた。
何も考えず、ただ目的を遂行するための機械となった。
それはかつて、暗殺時や敵に拷問を行う時、龍一が入れたスイッチだ。
引退すれば、二度と使うことはないと思っていたが、
それを入れれば、龍一の中の回路が切り代わり、体の指令に従って、ベレッタが動く。
何千回、何万回と繰り返した、射撃の行程。
正確に無慈悲に、白い影の中心に的を絞って、引き金をひく――。
がその時、
「――龍一ぃ!」
胸の中に直接響く、美百合の叫びと、
「……オカーサン!?」
白い影の不安そうな声を聞いた。
頬をはられるようなショックに頭が揺れ、
龍一が放った弾丸は、白い影の脇をすり抜けた。
「……俺が、はずした?」
信じられない事実に、龍一は息を飲む。
敵は目の前に立っている。
この距離で、龍一が狙った的をはずすわけがなかった。
最初のコメントを投稿しよう!