3 母

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だが今や白い影は、モヤモヤとした輪郭がはっきりし、ひとりの子どもの姿を形作っている。 黒い髪だが、色素が薄い透明な肌と茶色の瞳をした、10歳ぐらいの美しい少年。 「……負けちゃった」 生意気に肩をすくめてみせる仕草は、弟の皆人の小さい頃にそっくりだ。 これが葛原のわけがない。 だが子どもは、 「葛原ってやつは、ボクの中にいるよ」 龍一の心を読んだように、そう言った。 そして体を仰け反らせて、ビクンと跳ねた。 さっきまで確かに見えた少年の姿が、今度は薄ぼんやりと消えていく。 「おい!」 意味もわからず龍一は手をのばした。 それに縋るように、子どもは龍一に顔を向ける。 少しだけ、輪郭が復活したような気がした。 子どもは龍一に向かって命ずる。 「あいつが逃げ出す前に、ボクごと撃つんだ……」 「っ、バカな!」 龍一は声を荒げた。
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