3 母

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子どもは苦しげに自分の体を抱いて、その場に片膝をついた。 「早くしないと、逃げられる」 クッと呻いて、眉をしかめる。 葛原が美百合の中にいた時と同じだ。 葛原は、今は子どもの中にいて、そこから攻撃を仕掛けてきている。 龍一は、 「お前が犠牲になることはない」 いつの間にか、子どもに向かって歩を進めていた。 「それは俺の罪だ。だからこっちに寄こせ」 だが、 「ダメだよ」 子どもは顔をあげて、強く龍一を睨みつけた。 「あなたは強すぎる。こいつは入れないんだ」 だから、弱い方が狙われた、 子どもは悔しそうに唇を噛む。 子どもはよろよろと立ち上がり、そしてベンチの脇に立った。 背もたれに寄りかかり、まるで宝物に触れるように、シートの部分に手を置いた。 「いつも見てた。もう、泣かせたくはないんだ」 そこを見下ろして愛しげに言う仕草に、見覚えがあった。 誰に向けている言葉なのか、龍一にはわかった。 帰りが遅い美百合を心配して、龍一も何度もこの山に登っている。 しかし結局、美百合に声をかけることが出来ずに、 家に向かって歩き出すのを見届けてから、子どもと同じ仕草でベンチに触れていた。 ただ見守ることしか出来ない自分が歯がゆくて、 いつも、子どもと同じことを願っていた。 『泣かせたくない』 と。
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