3 母

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美百合が裏山に通うようになったのは、美百合の体に宿った子どもを、流産した後だ。 事実を聞かされて初めて妊娠を知ったような、美百合にも自覚のない時期だった。 美百合はそれから、この場所でひとりの時間を過ごすようになった。 どれだけ心を通わせようとも、男と女の間には溝がある。 美百合の受けた傷を、龍一が違いなく分かってやれるはずもなく、不用意な発言で美百合を傷つけたことさえある。 だからそれは、龍一が触れてはいけない、最大のタブー。 「お前は……」 子どもに尋ねようとして、言葉を探せずに、龍一は息を飲んだ。 「ボクは現世の存在じゃない。わかるでしょう」 子どもはベンチから顔をあげた。 「あいつはボクの中でもがいている。今度逃がしたら、次こそ殺される」 腹立たしげに眉をしかめる。 点滅信号のように子どもの姿が見え隠れし始めたのは、葛原を押さえこむ力が限界なのだろうか。 「さっきあなたと戦った。そこでボクが負けたんだ」 子どもは、龍一を振り仰いで、 「本当なら、ボクは二度撃たれてた」 こことここにね、と自分の口と胸を指差す。 「悔しいけれど、まだあなたの方が強い。だからこの役目を引き受けるのは、ボクだ」
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