1 猫

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龍一は唇の端をあげ笑い、掛け布団を右腕でめくって、誘った。 「おいで」 美百合は、とたんに赤面する。 「な、なによ。病人がそんなことして、いいと思ってるの?」 龍一は堪えきれず、クックッと笑った。 「ご要望にお応えしてもいいんだが、さすがに今はキツい。汗をかいたら、少し寒いんだ。ここへ来て温めてくれ」 美百合は、もう一段階、真っ赤になった。 腹を抱えて笑いたいところだが、あまりいじめると臍を曲げるので、唇を噛んで堪える。 体の脇で両拳を握り、プルプル震えている美百合に、助け舟を出してやった。 「風邪やインフルエンザじゃない。うつることはない」 美百合は、 「……うつってもいいのに」 訳のわからないことを愚痴りながら、もぞもぞと龍一の隣に潜りこんできた。 龍一の胸に、張り付くようにピタリと寄り添う。 「フフッ。汗臭い」 意地の悪いセリフは、からかった龍一への仕返しだろう。 龍一は微笑んで、美百合の肩を掴んで引き剥がし、代わりに自分が、美百合のふくよかな胸に顔をうずめた。 クンクンと鼻をならして、 「お前こそ汗臭いぞ」 冗談めかして言ってやる。 美百合は、龍一の頭をギュッと抱き、 「ヤ、龍一。くすぐったいよ。イヤ」 「何がイヤだって?」 顔を埋めたまま囁いてやると、美百合はますますくすぐったがって、ジタバタと暴れた。 龍一は、上機嫌の美百合に静かに尋ねる。 「また、いつもの裏山か?」 美百合は暴れるのをやめて、コクンとひとつ頷いた。
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