47人が本棚に入れています
本棚に追加
美百合は、ひとりで裏山に登ることを日課にしていた。
「ダイエット」
と美百合は笑うが、20分ほどで登ってしまえる小さな山では、さほどの運動にはならないだろう。
だけど、小山の拓けた頂上に立てば、眼下に龍一たちの住む一軒家を見下ろすことが出来る。
盛夏の夕暮れにかけて登れば、
家に灯る明かりや、その向こうまでずっと続く長閑な田園風景は、
そこに立つ者の心を慰めてくれる。
気持ちのいい場所だが、美百合は、龍一をけしてその場所には誘わない。
時間を見つけてはひとりで登って、かなりの長い時間を過ごしてくる。
小さな裏山の頂上でたったひとり、何事かを思い耽っている。
あまりに長い時間、帰ってこないと、さすがの龍一も心配になるのだが、それでも美百合の時間を邪魔することはしない。
けれど、美百合のために小さなベンチをしつらえ、山肌を縫う小道の整備を欠かしたことはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!