プロローグ

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嵐などなかった。 あの音は、風にざわめく樹々の音だった。 そういえば今日は風の強い日だった、と思い出して窓の外側から目を外した。 そして驚いた。 目の前の窓では雨が降っていた。 雫の通り道はぐねぐねと歪み、指で触れていたらしいところには、ぽっかりと穴があいていた。 窓に結露が発生していたことに初めて気がついた。 久しぶりにあの友達に会いたくなって、文字を描いた。 へ、の、へ、の、も、へ、じ。 懐かしい、まだあの時別れてから少ししか経っていないのに、すごく懐かしい。 「久しぶりだね、ーーさん。 そっちは変わりない? ーーさんおっちょこちょいだから、またどっか壊れてたりするんじゃない?」 返事がこないのなんて、わかってる。 私はふふっ、と笑った。 「あのね、ーーさん。 私、今、すごく」 楽しいんだよ、とその顔に言った。
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