第1章

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潜入/2 紫ノ上島沖11キロ 特別発電施設 午前9時27分  巨大な施設の一室。普段は使われていない会議室が、今は緊急治療室となっていた。  一時意識を失っていたクライド伍長は、朧ながら意識を取り戻し、涼の手当てを受けている。被弾した場所が幸い足と横腹で、唯一即死はしなかった。しかし弾が体内に残り、赤黒い血が流れ続けている。涼は僅か数時間前に拓の被弾とその後の手術を経験したから怪我人を見てたじろぐ事はなかった。それでも、苦痛に悶え呻く声と匂う血の匂いには慣れない。  薬もあった。拓用にユージが残していった薬や応急キットを涼は持っていたし、サクラも応急キットは持っていた。一番役に立ったのは鎮痛用モルヒネと、万が一用の医薬用コカインだ。クライド伍長は、少なくとも痛みと撃たれた事による心的ストレスショックを起こさずに済んだ。……しかし、もう長くは保たない事は、涼の目にも明らかだった……    別室 独房……  ……こんなはずではなかった……  致命傷のクライド伍長より何倍も強い激痛に晒されている。治療らしい治療はされず撃たれた傷口は布で縛られただけで、血は流れるがままだ。鎮痛剤も凝血剤も投与されない。  ピートは今、椅子に束縛され、両手も二つの手錠で椅子にがっしり固定され身動き一つできない。そして今、凍てつくような冷たい瞳で睨む赤い髪の少女から、問答無用で頭に布袋を、すっぽり被せられた。 「取引だ。お前たちが知りたい情報を俺は持っている、お前たちの捜査にとって重要な情報だ。さっさとホワイトハウスに掛け合え」  その主張はずっと続けてきた。サクラ=ハギワラ=クロベが紫ノ上島のサバイバル・デスゲームの中心人物であり、子供ながら特別な知性、裏社会屈指のVIP、ユージ=クロベの娘で政府にも裏社会にも特別なコネクションを持つ少女……子供だが子供扱いするな……と聞いていた。  確かにその情報どおり、サクラはおよそ子供らしいところはなく、冷静で取り乱したり感情的にもならず、冷酷だった。 「興味ない。あたしがCTU捜査官に見えるか? ホワイトハウスや軍なんか知らん」 「ユージ=クロベにとって重要な情報を持っている!! 捜査にとって……」 「あたしは捜査官じゃない。事件についてこれっぽっちも関心はない。許せないのは、自分の前で人が殺された事。取引には全く興味なし、アンタは処刑する」
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