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「・・・まあもう済んだ話なんだけどね」
気まずい沈黙を破るように上村の声が聞こえて真央は顔を上げた。
「同じスポーツをやってる真央ちゃんならユニフォームぐらいで引かれることないよね」
ニコッと笑った口元から除く歯が日焼けした肌とは対照的に白くて光が見えた・・・ように真央の目には映った。
上村は嫌いではない。話していても退屈しない。30cm程離れて立っているが近過ぎず気にならない。むしろ耳元に聞こえる声は心地よい。
「────いつまででも話していたいんだけど、俺この後バイトが入ってるんだよな」
「そ、そうなんですか・・・・ごめんなさい引き止めて。すぐ自転車取って来ます」
そういえば辺りが薄暗くなってきたような気がする。今何時と校舎の時計を見上げると7時を回っていた。
「男の人と30分以上話していたのって初めてかも」
自転車置き場には既に真央の自転車以外は見当たらなかった。
上村に拾ってもらった鍵を差込み跨ると急いで校門に向かった。
「ごめんなさい、待たせて」
上村はスマホを触っているところだった。
「全然。じゃあここからは逆方向なんで送れないけど気をつけて」
「はい、じゃあバイト頑張ってくださいね・・・ってどこですか?」
「バイト先? んなもん賄いメシを食べさせてくれる店に決まってるでしょ」
「へー、今度友達と行こうかな。そこって高校生のお小遣いでも入れるようなお店ですか?」
「高校生は無理だ・・・・居酒屋だし」
「そうなんだ。残念・・」
上村が手元のスマホにチラリと目をやって真央に視線を合わせる。
「ゴメン。そろそろ行かないとマジでヤバイ時間になってきた」
「そ、そっか。じゃああの、これで・・・・さようなら」
「じゃあ、またね」
クルリと向きを変えてそのまま振り返る事無く上村は行ってしまった。
さっきまでは時間が過ぎるの忘れるほど会話が弾んでいたというのに、別れの時はあまりにもあっけなかった。
「こんなものなのかな・・」
真央にとって男女交際は人生初めての経験だ。
妹が読んでいる少女マンガの様にトキメキなんぞ全く感じられなかったのだがそれに疑問を持つ事なく真央も家路に向かって自転車のペダルを踏み込んだ。
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