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表情が影に隠れて、怒っているのか笑ってるのかわからない。だから僕は曖昧な笑みを浮かべた。
「ごめん。おわったの?」
「・・・・・・うん」
彼女がスッと僕の前に立つ。振り向きもせずに、行こう、と言って歩き出した。
僕は後ろをついていくのに必死だ。普段から走り回る彼女の足は、インドアな生活の僕が叶わぬほど早い。必死に走る僕の耳に、なぜか水滴の音だけが聞こえてきた。
ポト。ポトリ。
雨は止んだはず。だけども、水滴の音が近づいては遠ざかる。まるで追いかけっこをしてるように。
パシャ、ポト。パタ、ポト、バッシャリ。
息切れをしながらようやく追い付いた。彼女の立ち止まった所で。
「ねえ」
「何?・・・・・・えっ 」
顔をあげた。彼女は逆行の光に包まれている。その姿の後ろに広がるのは、七来池。
いつの間に来たのだろう。絶対に踏み入れちゃいけないところなのに。
ポトリ。
「帰らなきゃ」
「なぁんでぇ?」
その甘ったるい声は彼女のものじゃなくて、僕は目を見はった。口許だけがやけに赤々とぎらめいている。大きな弧を描いているのに、目元は影で暗がりのなかにいる。
赤黒く染められた雲が不気味に辺りを包んでいった。
ポト。
「なぁんでぇ?」
ポト。ポトリ。
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