第1章

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 表情が影に隠れて、怒っているのか笑ってるのかわからない。だから僕は曖昧な笑みを浮かべた。 「ごめん。おわったの?」 「・・・・・・うん」  彼女がスッと僕の前に立つ。振り向きもせずに、行こう、と言って歩き出した。  僕は後ろをついていくのに必死だ。普段から走り回る彼女の足は、インドアな生活の僕が叶わぬほど早い。必死に走る僕の耳に、なぜか水滴の音だけが聞こえてきた。 ポト。ポトリ。  雨は止んだはず。だけども、水滴の音が近づいては遠ざかる。まるで追いかけっこをしてるように。 パシャ、ポト。パタ、ポト、バッシャリ。  息切れをしながらようやく追い付いた。彼女の立ち止まった所で。 「ねえ」 「何?・・・・・・えっ 」  顔をあげた。彼女は逆行の光に包まれている。その姿の後ろに広がるのは、七来池。  いつの間に来たのだろう。絶対に踏み入れちゃいけないところなのに。 ポトリ。 「帰らなきゃ」 「なぁんでぇ?」  その甘ったるい声は彼女のものじゃなくて、僕は目を見はった。口許だけがやけに赤々とぎらめいている。大きな弧を描いているのに、目元は影で暗がりのなかにいる。  赤黒く染められた雲が不気味に辺りを包んでいった。 ポト。 「なぁんでぇ?」 ポト。ポトリ。
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