序文

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序文

物心がついたときには、頭の中で声がするのは当たり前だった。 誰もが聞こえていると思っていた「頭の中の声」。 最初は声がすることが普通だと思っていた。 しかし、友達に話す度に気持ち悪がられた。 僕はいつの間にか、声について話すことを避けるようになった。 どうして僕にだけ聞こえるのか、ずっと不思議だった。 中学生になると本やネットで「頭の中の声」について調べた。 調べれば調べるほど不安が増した。 いつの間にか声は1人ではなく3人になっていた。 鏡に映る僕は僕でしかないのだが、僕は絶えず誰かに怒鳴られ、命令され、ときには優しく褒められ慰められた。 大学生になってから一時期、声が聞こえなかった気がする。 だけど、社会人になると再び聞こえ始めた。 ある日、仕事でミスをした。上司や同僚がフォローしてくれたので問題にはならなかったが、そのときから再び頭の中で大きな声が響き渡り始めた。 上司と両親の半ば強制的な勧めもあり、家から電車で1時間半もかかる大学病院の心療内科・精神科に通院した。 そこで初めて僕は「統合失調症」という、診断をくだされ晴れて病人となった。 すぐに治療がはじまったが、症状は改善されることなく日に日に頭の中の声は威圧的になっていた。 医師の診断には納得がいかず、僕自身は精神疾患を来しているとは思わなかった。 毎日、徐々に僕が僕自身ではなくなっていく恐怖に支配され、常に自分の存在が消えていなくなってしまうと恐れていた。 ある日『あきら君』との出会いによって、僕は現実と妄想のはざまを理解できたような気がした。 やがて、すべてを失う恐怖に耐えられなくなり、すべてを破壊する衝動に駆られるようになった。
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