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会社ではいつも通りの仕事をしているつもりだったが、同僚たちから怪訝な眼で見られるようになった。
ある日、津田がコーヒーを片手に近づいてきた。
「なあ、お前、最近めっちゃ独り言が多いぞ。大丈夫か?」
「え?独り言なんて言ってる?」
「ああ。周りの連中も気にしてる。本当に大丈夫か?」
学生のころは、できるだけ独り言を言わないように気をつけていたが、社会人になってからすっかり油断をしていた。
「全然問題ないよ。ミスを取り返すつもりで超気合い入ってるだけだよ。みんなにすっげぇ迷惑かけたから」
「そうか・・・じゃあ、いいけど。あんまり気合い入れすぎんなよ」
「大丈夫だって。ごめんな、心配かけて」
そんなやり取りをしていた数日後、仕事の電話中に受話器の向こうから聞きなれた声がした。
「じゃ・・・な・・・お前のミスじゃな・・・お前・・・ミスじゃ・・・な・・・」
「え?・・・」
久しぶりに聞こえてくる声は穏やかで暖かく感じた。
「悪く・・・前・・・に悪く・・・い。発・・・入・・・し・・・」
頭の中に響き渡る低い声が、あのミスは僕のせいじゃないと言っていた。
体がしびれて動けなくなったような気がし、しばらく黙ってその声を聞いていた。
遠くから静かに呼びかけられているような、誰かが僕を呼んでいるような声がしていたが、頭の中の声に遮られてよく聞こえなかった。
受話器を手に持っていることすら忘れていた。
突然、静寂を引き裂くような怒りと憎しみを込めたような唸り声が頭の中で響き渡った。
「お前のせいだぁ!おにごぉぉぉ」
「おにぃぃごぉぉぉ」
突然の出来事に僕は何が何だかわからなくなり、受話器を叩きつけた。
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