幼少期

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夏休みが近づいてきたころ、夕食後に家族でテレビを観ていると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。 最初はテレビの音かと思い気にとめなかったが、やがて唸るような低い男の声が頭の中で響きはじめた。 「お・・・がぁ・・・おっ・・・にぃ・・・おっ・・・ごぉぉぉ・・・」 「おま・・・お・・・ま・・・ま・・・え・・・ま・・・」 「おっ・・・おっお・・・にぃぃぃ・・・ごぉ・・・」 体が緊張し、手足が痺れるような感じがした。 冷房の効いた部屋なのに、汗が噴き出し全身が震えた。 一緒にテレビを観ている家族は、誰も僕の様子に気がつかなかった。 横にいる弟の笑い声が遠くでかすかに聞こえていた。 目の前がぼんやりし、すべてが霞んで見えた。 どんなに頑張っても、助けを求める声を出すことができなかった。 頭の中で唸り声が響き渡ると、おでこのあたりが割れるように痛みだした。 やがて下腹部に激痛が走り、どうしていいのかわからずひたすら痛みを我慢した。 しばらくして意識が遠くなり、弟の横で前のめりに崩れ落ちた。 一緒にテレビを観ていた父親が慌てて僕を抱き起こし、冷たくなった僕の身体に驚いていた。 父親が大声で何かを言っているのは、なんとなく聞こえた。 だが、毛布で体を包んで暖めてくれたときには、僕はすでに意識を失っていた。 病院で目を覚ましても、自分がどこにいるのかわからなかった。 それ以来、唸り声が聞こえると、高熱にうなされ、ひどいときは全身に蕁麻疹がでた。 あまりにも症状がひどいときは、母親に連れられて近所の内科専門の病院にも行ったが、いつも鎮痛薬と解熱薬を渡されるだけだった。
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