幼少期

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ある日、両親が僕を精神科に連れて行くか話し合っているのを聞いた。 僕の将来を考えると精神科に通院歴があるのは進学や就職に影響があるのではないか、弟には同じような様子は見られないか、とコソコソと話していた。 母親が「大丈夫だから・・・あの子は、大丈夫だから・・・」と言っているのが聞こえた。 その晩、部屋の片隅に黒っぽい陰が現れ、僕を見ているような気がした。 幻覚と呼べるほどハッキリしてはいないが、このとき見た陰がはじめての幻覚だと思う。 それ以来、視線を感じることが多くなった。 直接見られているというより、なんとなく誰かの視線を感じるといった程度で、すぐに慣れた。 夜、窓ガラスに映る自分を見ると、窓に映った自分の後ろにいる薄い影のようなものと視線が合う気がした。 それは人でも動物でもなく、ただの薄らとした影なのだが、表情があるように思えた。 窓ガラスに映り込んだときだけ、その影の存在を確認できた。 影に対する恐怖心は一切なかった。僕はときどき見るその影を「黒い人」と名付けた。 「人」としたのは、心のどこかで「人」であればまだ救われるような気がしていたからだと思う。
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