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夏も終わりに近づき夏休みボケがそろそろ抜け始めたころ、大学に用があり珍しく早起きをして大学へ向かった。
大学に向かう電車のなかでスマホを見ると、彼女からのLINEが届いていた。
授業が終わったらファミレスでご飯を食べて帰ろうといった内容だった。
僕は電車を降りると「了解」とだけ返信した。
歩きながら右斜め後ろ、やや上から覗き込まれているような気がした。
気のせいだと思いながら、大学に向かうことだけに集中した。
あきらかに人の気配を感じていたが、振り向いたら終わりのような気がした。いままで視線を感じることや「黒い人」を見ることはあったが、今回の気配はそれとは違った。
耳元でささやくような声も聞こえた。それは聞き覚えのないか細い声で、まったく聞き取れなかった。何度も何度も耳元でささやかれたが、なにを言っているのか理解できなかった。
無視するしかできなかった。
無視をして歩き続けると、突然、胃なのか食道なのか分からないが、焼けるような痛みが胸に刺ささった。
あまりの痛みに道の途中でうずくまってしまった。
誰も僕の存在に気が付かないのなか、当たり前のように通り過ぎて行った。
目の前が真っ白になり、子供のころに母親に手を引かれて横断歩道を渡っている姿を思い出していた。
「なんだろ・・・やけに眩しいな・・・」
「おっ・・・おっお・・・にぃぃぃ・・・ごぉ・・・」
「え?」
「おっ・・・おっお・・・にぃぃぃ・・・ごぉ・・・」
今度は聞き覚えのある声だった。
胸の痛みは和らいだが、久振りに頭の中で唸るような声を聞き、涙が止まらなくなっていた。
懐かしさは一切なかった。
ただただ不安と恐怖で、記憶の片隅に押しやっていた「頭の中の声」が再び聞こえたことにどうしようもない挫折感のようなものを感じた。
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