御霊の滝

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「父さん、母さん。おはよう」  返事は返ってこない。けど、父と母の笑顔はそこにある。  僕には「おはよう」とその笑顔が返してくれていると思えるから、それだけで十分だ。 「サチ、そっちは楽しいか?」 「ユウジくん、今日も水遊びしような」 「アズも遊ぼうな。猫じゃらし持ってきたぞ」  ここに来れば、僕は笑顔になれる。  煩わしい人間関係に惑わされることなく、僕の思った通りにことは進む。  誰も文句ひとつ言うこともない。  みんな従順に僕のことを笑顔で迎えてくれる。  なんて楽しいひと時なのだろう。  あのときから、僕はこの山奥で一人暮らすことを誓ったんだ。  御霊の滝の水飛沫を身体全体で感じるとともに、みんなも感じられる。  素敵な場所じゃないか。  みんな水になって笑顔になれたんだ。そうだろう。  怒った顔も悲しそうな顔も見たくない。僕はみんなの笑顔だけを思い生きていく。  なんて素晴らしいことだ。
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