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「美百合っ! 無事か美百合っ!」
龍一は血相をかえて、美百合に駆け寄った。
腕で顔を隠し、横たわったままの美百合の側までくると、力が抜けたようにガクリと膝をつく。
「……美百合」
龍一の声は、語尾がかすれて、弱々しく消える。
美百合は声を出すことなく、涙を流し続けていた。
龍一は、慰める言葉を探し視線をさまよわせ、結局、
「……すまない」
それしか見つけられないと頭を垂れる。
美百合は、冷たく湿った地面に横たわったままなのに、
「俺は、お前を起こしてやることもできない」
傷ついた龍一の腕は、ピクリとも動かなかった。
美百合は顔を覆った腕から、泣き腫らした目を覗かせて、ううんと首を振る。
「龍一、ひどい怪我」
後ろ手を立てて、自分で体を起こした。
「……龍一」
続いて腕を伸ばして、龍一の首に回そうとするのを、龍一はふいと後ろに下がって、美百合から逃げた。
「龍一?」
怪訝に眉をしかめる美百合に、龍一は苦しげに頬を歪める。
「俺は、お前を汚してしまう」
確かに龍一は血まみれだ。
それは自分が流した血でもあるが、加賀見の返り血でもある。
「そんなこと」
かまわず腕を伸ばそうとする美百合を避けるように、龍一は立ち上がった。
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