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美百合は放り投げられる勢いで、その中に突き飛ばされた。 ぷんと鼻につく、湿った土の匂い。 左の膝下と左前腕をしたたかに擦って、それでも気丈に顔をあげれば、美百合の頬を、垂れ下がったバナナの大きな葉が撫でる。 顔をあげると、鉄骨ガラス製の高い天井が目に入った。 ドーム型の天井からは、凸レンズの役割を果たすガラスが、太陽光を増幅させて美百合の目をうつ。 「……ここは?」 辺りには、おびただしい数の植物。 天井に届きそうなバナナの木、その隣にはヤマドリヤシがざわめいている。 足元にはリュウゼツランの棘のついた葉が茂り、支柱を這い上がって咲いているのはブーゲンビリアにマンデビラの花だ。 人を見下ろす位置で咲き誇る極彩色の花々。 細い歩けるだけの小道が、木々の奥までずっと続いている。 緑の葉の向こうから、野鳥の声でも聞こえてきそうなこの場所は、どうやら熱帯植物園の温室らしい。 美百合の二の腕を掴んで、ここまで引きずるように連れて来た男は、ダークカラーのシャツにジーンズ。 バーに行けば、美女のひとりやふたり、簡単にナンパ出来るだろう、すっきりとした容姿をしている。 しかし、 「あんた、誰よ」 震えを押さえて聞いた美百合に自己紹介もせず、うっすらと笑みを浮かべて立っている。 男の不気味さに、美百合は体をずらせて距離を計った。
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