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買い物に来ていた美百合は、化粧室でいきなり口を塞がれた。 背後から頭越しに大きな手で口を塞がれ、抵抗しようとした右の手首を掴まれる。 首を捻じ曲げるように、後ろに立つ男の顔を見れば、男は顔を反らすこともなく、見下ろすようにして美百合と目を合わせた。 男の余裕たっぷりの眼差しに、美百合は逆に、背筋に氷を通されたような寒気を覚える。 美百合は常に身の危険に晒されていた。 だから買い物の行き帰りは信用できるタクシーだし、道を歩く時も、人目の多い大通りを選ぶ。 買い物だって、主婦層ばかりが集まるスーパーマーケットにしか行かない。 けれどその、スーパーマーケットの女性専用の化粧室の中にまで、こんなに目立つ男が入り込めるとは思わなかった。 こんな場所で拉致されるなんて……。 男は美百合を捕まえると、口を塞いだまま、背中を押して、足を蹴飛ばすようにして前へと歩かせた。 『まだよ』 美百合は気を取り直す。 ここで騒いでも、気絶させられてしまうかもしれない。 もっと人目につく場所で声をあげる必要がある。 店の外へ出るには、主婦が集う店内を通るか、事務所を兼ねた警備員室を通るしか道はないのだ。 このまま誰の目にとまらず、連れ出されるとは思えなかった。 とにかく、どこかで騒ぎさえおこせば、美百合の絶対無敵のスーパーマンの耳に入る。 すぐに助けに来てくれるはずだ。 必ず、そのチャンスはある。 美百合は緊張を高めながら、男の隙を覗った。
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