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しかし警備員室のドアを無造作に開ければ、そこで男が三人、机に突っ伏して死んでいるのを見た。
「――」
美百合は思わず息を飲む。
死んでいる人間のうち、ひとりは警備服、ひとりはスーツ姿だ。
残りのひとりは、店のユニホームを着ている。
自分に何が起きたのかわからないまま殺されたのか、死体の瞼はどれも不思議そうに見開いていた。
机の上にじんわりと広がりつつある真っ赤な血が、この惨劇が、ついさっき行われたばかりだと美百合に教える。
思わず目を伏せた。
「ね。だから、おとなしくね」
美百合の耳元に、男は唇を寄せてささやいた。
間違いなくこの男が、この人たちを殺したのだ。
その手が今、美百合の口を塞いでいる。
美百合は喉の奥からせりあがってくる嘔吐と悲鳴を懸命にこらえた。
美百合が騒ぎを起こせば、美百合の声を聞きつけた人が、きっとすぐに駆けつけるだろう。
けれどこの男は、そんな関係のない人々でも、おそらく、眉ひとつ動かさずに殺すのだ。
美百合は結局、声をあげることも出来ず、男に背中を押されて事務所を出た。
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