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逆に、今度は龍一が立ち上がり顎をあげ、加賀見を値踏みするように見下ろしてきた。 感情の感じられない薄刃をひいたような冷たい眼差しは、加賀見の背筋をぞくぞくと震わせる。 その眼差しに囚われて、身動きひとつできない。 ――龍一は、完璧に美しい。 美百合と加賀見をあんなに乱れさせておきながら、自分は汗ひとつかいていない涼しい顔。 血で張り付いたシャツに浮きあがる、均整がとれたたくましい半身。 そして、ズボンの中で、己の欲望を堂々と主張する、張りつめた龍一自身。 龍一の前は、何故そこから飛び出してこないのか不思議なくらい猛っていた。 男の感情で一番正直なそこを見れば、龍一が今、劣情の炎に燃え上がっているのがわかる。 あの情熱を、この体で受け止めたい。 加賀見は、唇をキュッと噛んで決心を固め、祈るように両腕を前に差し出した。 震える声で、唯一の願いを口にする。 「ああ、お願いです。有坂さん。どうか……」 自覚のないまま、熱い液体が、頬を伝い落ちる。 これまで泣いた記憶などほとんどないのに、加賀見は、理由のわからない涙を止めることが出来ない。 「どうかお願いです。ボクに……」 どんな言葉で求めていいのかわからず、少し言い淀んだ。 「……ボクに……」 言葉を探して視線をさまよわせる加賀見に、龍一はふと、視線を和らげて見せた。 その笑みとも言えぬ僅かな緩和に、加賀見は全身が幸福で満たされるのを感じる。 しかし唇の端があがっただけの龍一のその笑みは、 「お前じゃ、役者不足だな」 加賀見に引導を渡す。
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