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「……有坂さん……」 加賀見は歓喜に震えた。 加賀見が欲して、焦がれて、求め続けた龍一が、ようやく応えてくれたのだと思った。 何度も諦めようと思い、苦しみ、それでも諦められずに、 結局、地位も名声も仕事も、何もかもを捨てて、一生を見守る立場を選んだ。 だが、見ているだけの生活に満足できなかった。 秘めたはずの想いに負けて、ついに狂ってしまった自分。 龍一の愛を一身に受ける美百合を見るにつけ、日々、憎しみだけを募らせていった。 己が手にしている幸福に、ちっとも自覚のないこの腹立たしい女を、残酷な方法で殺す夢想だけが、加賀見の心を慰めてくれた。 龍一への告げられぬ想いが、いつの間にか、美百合への殺意にすり替わっていたのだ。
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