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だが――、 加賀見の思惑に反して、龍一は加賀見の前に現れ、加賀見の気持ちなど、とっくに知っていたと言う。 すべてを龍一が知らぬ間に終わらせ、龍一が絶望に染まるのを見るのが楽しみだったのに、 龍一は突然、加賀見の前に現れて、ふたつの選択肢を示す。 勝者となって龍一を失うか、敗者となり龍一を得るか。 結局加賀見は後者を選び、龍一に膝を屈したというのに、それでも龍一は、加賀見を貶め続けた。 ばかにされ、辱められ、男としてのプライドもズタズタにされた。 だがそこまで加賀見がボロボロにならなければ、けして龍一は手に入らないのだ。 加賀見がすべてを投げ捨てたからこそ、龍一は施しをくれるのだ。 この憐れな男に、気まぐれのように投げ与えられる、龍一の体。 それは、一時の憐憫の情かもしれない。 それでも、 「……ああ」 この一瞬のためだけに、自分は生きてきたのだと知る。 龍一は、加賀見のすべてを差し出さなければ、けして手に入らない。 龍一の一瞬は、加賀見の一生と同等。 それはきっと、最初から決められていたことなのだ。
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