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「……有坂さん」
すがるように見上げる加賀見の眼差しを正面から受け止め、龍一は眼前に立っていた。
黙っているのは、龍一の声まで望むのは欲張りすぎだと諫めているからだろうか。
加賀見は龍一の中心に腕をのばす。
龍一の気まぐれが、加賀見に向いているその間に……
触れたくてたまらなかった龍一自身に腕をのばす。
だが、
――カチリ――
硬質な感触が加賀見の額に押しつけられた。
「有坂、さん?」
顎を動かして見れば、龍一の手には、すっぽりと収まってしまうほどの小さな銃。
デリンジャー。
いつ、どこから、どうやって?
誰が龍一に握らせた?
加賀見は訳がわからない。
ただ自分が龍一を求めて行っただけに、腕のあがらない龍一の銃口を、自分の額で迎えに行く格好になった。
「……どうして?」
最後まで加賀見の脳裏を占めたのは疑問だけだった。
結局答えなど、どこにも見つからなくて。
ただ、
「終わりだ」
龍一の低い声と、乾いた二発の発砲音が、すべてを終わらせた。
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