7/7
前へ
/78ページ
次へ
「……有坂さん」 すがるように見上げる加賀見の眼差しを正面から受け止め、龍一は眼前に立っていた。 黙っているのは、龍一の声まで望むのは欲張りすぎだと諫めているからだろうか。 加賀見は龍一の中心に腕をのばす。 龍一の気まぐれが、加賀見に向いているその間に…… 触れたくてたまらなかった龍一自身に腕をのばす。 だが、  ――カチリ―― 硬質な感触が加賀見の額に押しつけられた。 「有坂、さん?」 顎を動かして見れば、龍一の手には、すっぽりと収まってしまうほどの小さな銃。 デリンジャー。 いつ、どこから、どうやって? 誰が龍一に握らせた? 加賀見は訳がわからない。 ただ自分が龍一を求めて行っただけに、腕のあがらない龍一の銃口を、自分の額で迎えに行く格好になった。 「……どうして?」 最後まで加賀見の脳裏を占めたのは疑問だけだった。 結局答えなど、どこにも見つからなくて。 ただ、 「終わりだ」 龍一の低い声と、乾いた二発の発砲音が、すべてを終わらせた。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加