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「俺は化け物だ。お前に触れればお前を傷つける。側にいるだけでも、危険な目にあわせてしまう」
あげた顔が何故か微笑んでいた龍一に、美百合は目を見開いた。
「すまない」
龍一は身をひるがえして逃げ出した。
美百合は、
「行かないで」
けれど龍一は、どんどんと足を進めていく。
「待ってよ!」
まるで美百合の声を振り切るように、風を切るスピードだ。
美百合は、
「私をキライになったの?」
他に言葉を見つけられずに、
「私は龍一が好きよ!」
叫んだ。
叫びながら、どうしてもっとましな言葉が出てこないのだろうと、悔しくてたまらない。
「龍一がいなくなったら、私はきっと生きていけない」
龍一は、
――足を止めた。
それでも美百合を振り返ろうとしない。
温室のドアはもうすぐ目の前だ。
言葉を間違えればきっと、龍一は出ていってしまうのだろう。
美百合は龍一の背中を見つめた。
後ろ姿だけでも十分に格好いい、スラリとした立ち姿。
長い足。
でもそんなものだけに美百合は惹かれているわけではない。
「私は龍一のせいでは絶対に傷つかない。
龍一に側にいて欲しいの。龍一がいなくなることだけが、私を傷つけるの。――私を殺すのよ」
龍一の背中がピクリと震える。
「龍一が化け物だろうが何だろうが、側にいて欲しいのよ」
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