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龍一の持つキーホルダーを感知して、プジョーのロックは自動で解除される。 しかしドアの前に、見知った男が立ちふさがった。 「なんだ谷口」 男を認めた龍一の声は険呑だ。 谷口は、かつての仕事の同僚で、現在も付き合いを続けている数少ない仲間のひとりだ。 だが、今の龍一に、のんびりと客人をもてなしている暇はない。 とにかく現状確認と美百合の行方を明らかにしにいかなければならない。 けれど龍一の行く手を遮った谷口は、 「残念ながら、行かせるわけにはいかねーんだわ」 と言って、咥えていたタバコを足元に落とした。 「有坂龍一に逮捕状だ。特別公務員職権濫用等致死傷罪の容疑」 胸ポケットから畳んだ紙を広げて見せる。 龍一は眉根を寄せた。 「俺は引退しているはずだが?」 谷口は足元のタバコの火を、靴の裏で乱暴にねじって消す。 「だったら、殺人容疑に切り替わるだけだ」
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