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プロローグ
あえかな声で美百合は龍一の名を呼んだ。
その声に応えて、龍一が手のひらで美百合の頭を包むように撫でると、
美百合はすっぽりと覆われる、その大きな安心感にようやくほっと息をつく。
そしてまるで、落ちるように深く眠った。
龍一の囲った腕の中で、すべてを龍一に預けて、規則正しい寝息をたてる美百合を見おろせば、
龍一は体の奥底から熱い充足感が湧いてくるのを感じる。
龍一が求めるものは、すべてここにある。
そして龍一を虜にするこの幸せが、けして自己満足だけではないのだと、美百合のちょっとやそっとでは起きない深い眠りが教えてくれる。
普段の美百合はけして素直ではないから、龍一は夜になると、美百合をたっぷりと泣かせ、龍一を求めさせ、やっと安心することができるのだ。
朝をむかえれば、美百合は決まって龍一のしつこさに文句を言うが、それでも、
「お前も喜んでいるように見えたぞ」
意地悪を言ってやれば、ぶっくりと膨れて黙り込む。
大福のようにやわらかい頬から、嘗めると甘いのではないかと思える耳たぶまでを真っ赤に染めて、龍一をやりこめる言葉を必死になって考えている。
その様子が愛しくてたまらない。
「イヤだったら、はっきりとそう言え。今夜はお前に手を出さないと約束しよう」
龍一の提案に、美百合の表情がパッと輝く。
それを見て、龍一は心の底から美百合を憎らしく思った。
だから、
「その代わり、お前が上になって俺を責めるんだぜ。俺が満足するまでずっとな」
ポケットに親指を引っ掛け腰をかがめ、美百合の耳をちょっと嘗めてやれば、美百合は全身を桜色に染めて、自分で息を止めてしまう。
俺に逆らおうだなんて、百年早い。
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