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乾いた音と湿った音……
寝室に、ふたつの音が交互に繰り返される。
ベッドに横たわる由果子……、その身体に馬乗りになったトオルの手には、刃渡り二十センチの洋包丁が握られていた。
トオルは両手で握った洋包丁を高く持ち上げたあと、由果子の胸めがけて振り下ろす。
鋭利な刃先が由果子の胸に突き刺さるたび、乾いた音が響いた。
そしてその洋包丁を身体から引き抜くたびに、飛び散った赤い血がトオルと由果子の顔を濡らし、湿った音を鳴らした。
トオルはそうやって、もう何十回も洋包丁を振り下ろし続けている。
大きく目を見開いた由果子の身体は、刺されたときの衝撃により微かに動くだけで、もうずいぶん前から息もしていない。
トオルの手がやっと止まったとき、二人の顔はペンキをかぶったみたいに真っ赤に濡れていた。
肩で息をしながらベッドを降りて、トオルは持っていた洋包丁をベッド脇に投げ捨てた。
それから血で濡れた両手を、赤く染まったワイシャツに擦りつけた。
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