捻って溢れるのは水じゃなく、逆に捻っても収まらないんだ

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名前が……出てこない。 え、あれ? 同じクラスで、一組で……。 さっきだって運動場でマラソンして……あれ? 私は彼が走ってる姿を見た? 「ま、まってよ、じゃあ友美はなんで彼のことを知ってるの?同じクラスだからじゃ……」 「違うわ」 きれいな顔をした友美は、少し悲しみを混ぜた瞳で彼を見た。そして気付いた。さっき運動場で彼を見ていた目は、これだ。片想いなんかじゃなくて。 「彼は私のお兄ちゃんなの。私より、ふたつ年上の……」 「兄妹……なの?」 友美がなんで彼を見ることができるのか、私もなぜこんなに会話したりできているのかはわからないけど、彼はまた淋しそうに笑った。 「学校は嫌いじゃなかったんだけどさ、俺……虐められてて」 暑い夏の日のこと。 誰もいないこの水飲み場で、バケツにいっぱいの冷たい水。 男子達の笑い声。 そして、視界は真っ青な水の中へ。 沈むことも許されず、浮かぶことも許されない。 吐き出した空気は泡になって顔に当たり、水面へ消えていく。 見えるのは、青い、青い水の底だけ。 感じるのは、恐怖と、淋しさだけ。
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