4人が本棚に入れています
本棚に追加
名前が……出てこない。
え、あれ?
同じクラスで、一組で……。
さっきだって運動場でマラソンして……あれ?
私は彼が走ってる姿を見た?
「ま、まってよ、じゃあ友美はなんで彼のことを知ってるの?同じクラスだからじゃ……」
「違うわ」
きれいな顔をした友美は、少し悲しみを混ぜた瞳で彼を見た。そして気付いた。さっき運動場で彼を見ていた目は、これだ。片想いなんかじゃなくて。
「彼は私のお兄ちゃんなの。私より、ふたつ年上の……」
「兄妹……なの?」
友美がなんで彼を見ることができるのか、私もなぜこんなに会話したりできているのかはわからないけど、彼はまた淋しそうに笑った。
「学校は嫌いじゃなかったんだけどさ、俺……虐められてて」
暑い夏の日のこと。
誰もいないこの水飲み場で、バケツにいっぱいの冷たい水。
男子達の笑い声。
そして、視界は真っ青な水の中へ。
沈むことも許されず、浮かぶことも許されない。
吐き出した空気は泡になって顔に当たり、水面へ消えていく。
見えるのは、青い、青い水の底だけ。
感じるのは、恐怖と、淋しさだけ。
最初のコメントを投稿しよう!