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それから私は喉が渇いたときは、四組側の水飲み場の、真ん前の蛇口を使うようにした。
上向きにした蛇口から不規則な形の水が溢れだし、そっと唇を触れされると冷たい水が口の中に滑り込んでくる。
喉を潤し、体を満たし、なぜか心もサラリと綺麗になるような、そんな気がした。
口元をハンカチで拭いて水飲み場を離れると、クラスメイトのアブラギッシュが(あだ名になった)水を飲みにきた。真ん中の蛇口を使おうとして蛇口を捻ると、水は出ない。
「あれ?」
仕方なく右隣の蛇口を捻って水を飲みだしたとたん、別の所から悲鳴が聞こえた。
「ぎゃぁぁぁ!なんでお前が使うんだぁっ!そこはそこはっ!二組のアイドルがこれから使うんだからボクが念入りに……(自主規制)」
「なんだと……ぉええぇぇっ」
ぅわぁ、お約束……まさか。
一度背を向けた水飲み場にそっと振り返る。あそこで悶絶する男子二人は見たくないけど、確認しなきゃいけない。
水飲み場の側には、彼がいた。
初めて会ったときの運動着姿ではなく、私服姿で。
「大丈夫、君の唇は俺が守るから」
優しく、淋しげに彼は、微笑んでいた。
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